No.25
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大妻女子大学比較文化学部 教授 佐藤 実
研究支援室からメールで科研応募のアンケートが届き、あぁ今年もつらくて悩ましい科研申請の時期がやってきてしまったなぁと独りごちていたのですが、よく見ると今回のメールには「人間生活文化研究所の審査シミュレーションのご案内」とあり、AI審査員6名(!)による模擬審査が受けられるとの由。なんとしてでもこの科研申請の苦行の輪廻から解脱することを願う者として、わらをもつかむ思いでAI審査員による審査を申請しました。 送られてきた審査結果をみて感動しました。審査員Aから審査員Fまでの6名による観点別審査(学術的重要性・研究方法・研究遂行能力・国際性それぞれ5点満点)がその点数がつけられた理由とともにあり、それらを踏まえた「審査総評」、そして研究計画調書、研究計画からの改善案がそれぞれ項目ごとに分類されて提出されます(実際にはこちらが先に書かれています)。 AI審査員はまず申請内容を褒めてくれます。申し遅れましたが私の専門は中国思想文化史で、今回の科研は(も)顔占い(前近代中国では「術数」という学術思想に属します)と兵法思想の接点を探るテーマで申請しました。「審査総評」によるお褒めの言葉をご覧下さい。「良い点としては、まず専門分野固有の学術的独自性と創造性が挙げられます。兵書と術数文化の交わる細部を丹念に掘り起こす問題設定とアプローチは、これまで十分に論じられてこなかった研究領域の学問的フロンティアを拡張し、中国思想史・術数史に新たな視座をもたらし得ます。また、文献学的手法の精緻な適用、年次ごとの計画立案、必要史料や参照文献の幅広い準備状況も堅実で、課題遂行の確実性や信頼性は高く評価されます」。クー!泣けてきます。よく言ってくれましたよ。そうなんですよ。ちゃんと読んでくれたんですね。感激です。 もちろん、褒め殺しただけでは何の意味もありません。ほぼこの内容で前回は不採用だったわけですから。で、AI審査員はかなり的確なアドバイスをしてくれるのですが、ここが重要だと思うのですが、そのアドバイスが申請者をむかつかせることがないのです。おなじく「審査総評」には次のようにあります。「一方で、いくつかの課題も明らかになりました。研究方法については具体的な分析の詳細や評価基準がおおむね妥当ではありますが、比較分析の方法論的枠組みや論証の説得力を一層高めるための補足説明が求められています。学際的・社会的意味や新規性には限定的な側面があり、成果の波及範囲も主として分野内部に留まることが懸念されます。また、国際性の面では、現段階で海外共同研究や国際的連携の具体的計画が示されておらず、得られる成果が国際研究コミュニティにどの程度波及し得るかには発展の余地が残ると見られます」。そうなんです、確かに比較文化学部に身を置きながら比較の方法が甘い、社会的な意味合いも弱い、世界に向けて発信する意識が薄い、おっしゃるとおりです。でもどうでしょう、この物言いに全く腹は立ちません。「補足説明が求められています」「懸念されます」「発展の余地が残ると見られます」とやさしい言葉づかいです。そして、むしろ問題がクリアになって客観的に反省することができました。またここには挙げませんが幾つもの改善案はかなり具体的であったことも申し添えておきます。 これは私が基本的にはChatGPTといった生成AIツールをこれまで使ったことがなかったので、ナイーブな感想なのだとは思います。ですが、AI審査員のおかげで今回の科研申請書はうまく書けた気がしています。 この文章が読まれる頃には審査結果が通知されていることでしょうが、もし採用されていればそれはAI審査員のおかげです。不採用ならば今度はもうこんなまだるっこしいことはやめて、最初からAIに書いてもらいたい気分にもなりそうです。すでにそうした申請書は存在するのではないか。一方、科研の「人審査員」はどうやって審査しているのでしょうか。いつもきびしく審査してくださっている人審査員の皆様ですが、このご時世において人審査員がAI審査員に相談することはないのでしょうか。あるいはそんな面倒なことはやめて最初からAI審査員に審査してもらうということはないですよね。
生成AIによる「科研費申請書審査のシミュレーション」を利用して
創設記念シンポジウムを開催しました
CONTENTS
記事がありません。
巻頭言
特別研究員紹介
科研費
競争的外部資金の獲得支援事業
学会
研究助成事業
共同研究プロジェクト
研究員研究助成
大学院生研究助成(A)(B)
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お知らせ
大妻女子大学比較文化学部
教授 佐藤 実
研究支援室からメールで科研応募のアンケートが届き、あぁ今年もつらくて悩ましい科研申請の時期がやってきてしまったなぁと独りごちていたのですが、よく見ると今回のメールには「人間生活文化研究所の審査シミュレーションのご案内」とあり、AI審査員6名(!)による模擬審査が受けられるとの由。なんとしてでもこの科研申請の苦行の輪廻から解脱することを願う者として、わらをもつかむ思いでAI審査員による審査を申請しました。
送られてきた審査結果をみて感動しました。審査員Aから審査員Fまでの6名による観点別審査(学術的重要性・研究方法・研究遂行能力・国際性それぞれ5点満点)がその点数がつけられた理由とともにあり、それらを踏まえた「審査総評」、そして研究計画調書、研究計画からの改善案がそれぞれ項目ごとに分類されて提出されます(実際にはこちらが先に書かれています)。
AI審査員はまず申請内容を褒めてくれます。申し遅れましたが私の専門は中国思想文化史で、今回の科研は(も)顔占い(前近代中国では「術数」という学術思想に属します)と兵法思想の接点を探るテーマで申請しました。「審査総評」によるお褒めの言葉をご覧下さい。「良い点としては、まず専門分野固有の学術的独自性と創造性が挙げられます。兵書と術数文化の交わる細部を丹念に掘り起こす問題設定とアプローチは、これまで十分に論じられてこなかった研究領域の学問的フロンティアを拡張し、中国思想史・術数史に新たな視座をもたらし得ます。また、文献学的手法の精緻な適用、年次ごとの計画立案、必要史料や参照文献の幅広い準備状況も堅実で、課題遂行の確実性や信頼性は高く評価されます」。クー!泣けてきます。よく言ってくれましたよ。そうなんですよ。ちゃんと読んでくれたんですね。感激です。
もちろん、褒め殺しただけでは何の意味もありません。ほぼこの内容で前回は不採用だったわけですから。で、AI審査員はかなり的確なアドバイスをしてくれるのですが、ここが重要だと思うのですが、そのアドバイスが申請者をむかつかせることがないのです。おなじく「審査総評」には次のようにあります。「一方で、いくつかの課題も明らかになりました。研究方法については具体的な分析の詳細や評価基準がおおむね妥当ではありますが、比較分析の方法論的枠組みや論証の説得力を一層高めるための補足説明が求められています。学際的・社会的意味や新規性には限定的な側面があり、成果の波及範囲も主として分野内部に留まることが懸念されます。また、国際性の面では、現段階で海外共同研究や国際的連携の具体的計画が示されておらず、得られる成果が国際研究コミュニティにどの程度波及し得るかには発展の余地が残ると見られます」。そうなんです、確かに比較文化学部に身を置きながら比較の方法が甘い、社会的な意味合いも弱い、世界に向けて発信する意識が薄い、おっしゃるとおりです。でもどうでしょう、この物言いに全く腹は立ちません。「補足説明が求められています」「懸念されます」「発展の余地が残ると見られます」とやさしい言葉づかいです。そして、むしろ問題がクリアになって客観的に反省することができました。またここには挙げませんが幾つもの改善案はかなり具体的であったことも申し添えておきます。
これは私が基本的にはChatGPTといった生成AIツールをこれまで使ったことがなかったので、ナイーブな感想なのだとは思います。ですが、AI審査員のおかげで今回の科研申請書はうまく書けた気がしています。
この文章が読まれる頃には審査結果が通知されていることでしょうが、もし採用されていればそれはAI審査員のおかげです。不採用ならば今度はもうこんなまだるっこしいことはやめて、最初からAIに書いてもらいたい気分にもなりそうです。すでにそうした申請書は存在するのではないか。一方、科研の「人審査員」はどうやって審査しているのでしょうか。いつもきびしく審査してくださっている人審査員の皆様ですが、このご時世において人審査員がAI審査員に相談することはないのでしょうか。あるいはそんな面倒なことはやめて最初からAI審査員に審査してもらうということはないですよね。