巻頭言
巻頭言

研究所長よりみなさまへ

山倉 健嗣
人間生活文化研究所 第10代所長
大妻女子大学 副学長

人間生活文化研究所長の4年間を
振り返って
2020年4月より2024年3月まで4年間、人間生活文化研究所長を務めました山倉です。
就任当初のことは今でも鮮明に思い出します。まず対応を迫られたのは感染が拡大した新型コロナウイルスです。大学生活のあらゆる面で従来とは違う対応が必要になりました。5月の連休明けに対面ではなくオンラインでの授業が開始されました。学生も教員も前が見えない状況で授業が進められました。当然のことながら研究活動もストップすることになりました。本研究所で4月初め予定されていた科研費支援のための科研塾も延期せざるを得ませんでした。2021年度より科研塾の開催形態は対面からオンライン開催に変更し、2022年度からは科研費新規採択者の報告を組み込み、年4回開催が定着してきました。
2020年度から2023年度にかけて、新規と継続を合わせた、科研費採択件数は46件、62件、64件、70件と順調に増加しています。2023年度の私立大学採択件数の順位は2022年度の138位から106位に上昇しました。特に若手研究の件数が伸びている点は注目されます。
オンラインジャーナルとしての「人間生活文化研究」については査読付き論文掲載本数を増やすことを目指しましたが、2020年から2023年までの間で18件、9件、13件、11件という状況でした。査読なし論文については投稿規程を変更し、投稿者について第一著者の所属を学内としました。雑誌の性格をどうしていくのかは課題として残っています。
研究助成事業として、戦略的個人研究費、共同研究プロジェクトなどの事業を推進しています。2020年度から2023年度の戦略的個人研究費の採択課題件数は32件、26件、17件、17件と推移しています。共同研究プロジェクトの採択課題件数は23件、21件、15件、14件です。ともに採択件数は下がっているのは気になります。
この4年間をエビデンスベースで振り返りました。こうした活動を支えていただいた下田先生、事務の方に感謝し、田中所長の下での更なる発展を祈念します。

田中 直子
人間生活文化研究所 第11代所長
大妻女子大学 副学長

大学院生研究助成制度:
大学院生を育てるということ
この4月より人間生活文化研究所長を拝命いたしました。研究所には一教員としてこれまで大変お世話になってきましたので、少しでも恩返しができることを嬉しく思っています。
人間生活文化研究所は、電子ジャーナルや電子ブックの発行、科研費申請支援「科研塾」など、さまざまな研究支援事業を行なっていますが、大学院生に対する研究助成も大切な1つの柱になっています。大学院生の研究費は、かつては指導教員に大学から支給されていましたが、大学院生本人が自由に使えないなどの訴えもあり、指導教員には研究指導手当として支給される一方、大学院生自身が研究に使える資金として、2011年に研究所が助成金制度を立ち上げました。
この制度のすぐれたところは、大学院生自身が申請書を書き、審査を受けて、その申請書の出来によって申請額が決まること、決算報告、研究報告を行う必要があること、すなわち競争的資金に将来アプライする練習ができるところにあります。申請書には、学術的背景や独自性、創造性などを記載する必要があり、研究方法や年間の研究計画についても入学した最初から向き合うことになります。思えば自身の大学院生時代は、指導教員から与えられた研究テーマと実験に日々没頭して過ごし、いざ論文を書くときまで全体を見渡すことをしなかったなと思い出されます。研究に足を踏み出したばかりの時期に、自分の研究テーマの位置付けや、研究内容や方法の妥当性を考えながら研究費を申請する習慣を身につけることは、実はとても大切なことではないかと思います。
大学院生は指導教員が育てると思われがちです。もちろん、指導教員が時間と身を削って指導していますし、どんな指導を受けられるかは大学院選びで間違いなく重要なポイントになるでしょう。しかしながら、どんなしくみが整っているかも大切な要素ではないかと思います。実は、この大学院生研究助成制度は、企業からの寄付金で支えられています。人間生活文化研究所の活動にご賛同くださっている企業様、そして研究所スタッフ/審査員の方々など多くの方の努力によってこの制度は支えられています。日本のこれからを担う若者のために、末長くこの制度を大切に維持していければと思っています。

 

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