No.22
1979年に就職のため東京大学大学院社会学研究科博士課程を出て以降、42年間にわたり国公立大学において社会学教員として勤務し、社会理論研究を専門領域としつつも、主にジェンダー研究に関わる研究課題に取り組んできた。学部・大学院時代には当然ジェンダーに関わる授業は一切なく、社会学会においてさえ今でいうところのジェンダー研究はほとんど存在しなかった。当時と今の状況を比較すると、まだまだ不十分であるとはいえ、現在のジェンダー研究は主題の多様性や従事する研究者の多さなどにおいて、格段の発展を遂げており、隔世の感がある。
研究課題の「ジェンダーとポジショナリティ」は、本学社会情報学部の池田緑先生を研究代表者とする科研費研究「ポジショナリティの実証的研究」の中で行っている研究である。ポジショナリティとは、池田先生によると「所属する社会集団や社会的属性がもたらす利害関係にかかわる政治的位置性」であり、この科研費研究の意義は「実証的」に研究するという点にある。この科研費研究の成果は、既に2024年4月に、『日本社会とポジショナリティ』(明石書店)として刊行されており、筆者はこの中で、対面的相互行為論に基づくジェンダーに関わるポジショナリティ現象の分析を、行っている。例えば、アメリカでも日本でも、フェミニズムに反対する女性政治家は、保守の政治勢力において非常に特異な位置を占める。この位置は、「人の政治的意見をその人の社会的属性から推測する」というポジショナリティに関わる人々の解釈ルールの存在から生み出されていると考えられる。同様のことは性暴力に関わる現象にも見出せる。このようにポジショナリティは、ジェンダーに関わるコミュニケーションにおいて、特定の傾向を確実に生み出している。それゆえポジショナリティの解明は、ジェンダーに関わるよりよいコミュニケーションの実現に、充分寄与しうると考える。