No.22
生物にとって細胞分裂は重大なイベントで、分裂によって生物は増殖でき、またその過程で進化することも可能である。細胞が分裂する際に、まず細胞核が2つになる(核分裂)。ついで細胞そのものが2つになって(細胞質分裂)、細胞分裂が完了する。私たち動物の体や卵細胞が細胞質分裂する時には、細胞のほぼ真ん中の細胞膜がくびれるという、細胞にとっては大変大きな変化が起こる。細胞がくびれている部分は溝のようになるので分裂溝と呼ぶ。なぜ細胞の真ん中だけがくびれるのだろうか?分裂溝部分には「収縮環」という環状構造が作られて(写真)、この構造が収縮しながら細胞膜を引っ張ってくびれを進行させ、細胞を2つにくびり切るのである。収縮環は蛍光染色して蛍光顕微鏡で観察しないと見ることができない。
私たちの研究により、この収縮環はアクチンというタンパク質の繊維構造とミオシンというATP加水分解酵素(ATPase)の一つが、すべての生物運動のエネルギー源物質ATP(アデノシン3リン酸)を分解して放出されるエネルギーを使って滑り合うことによって起こる、ということがわかった。このアクチン、ミオシンは私たちの筋肉を作っているタンパク質でもあり、収縮環の収縮は筋肉の収縮と基本的に同様の運動である。しかし違いもある。それは、筋肉は我々が生きている限り恒久的に存在する構造だが、収縮環という構造は細胞が分裂するときだけに作られ、細胞分裂後には消失してしまうのだ。この違いはアクチン、ミオシン以外の、補助的に働くタンパク質の働きによって生じている。
私たちが現在、ウニの卵細胞や酵母の細胞を使って研究しているのは、収縮環が細胞内のどのような情報によってどのように作られるのか?という問題である。それには細胞が分裂周期(例えば分裂酵母は2時間、ウニの卵細胞は20分)に従って細胞内に放出する情報をアクチン調節タンパク質という一群のタンパク質が受け取ってアクチンを繊維として重合させ、ミオシンに対してはATPase活性を発揮するように「活性化」するということがわかった。