特別研究員

英文学
伝統芸術制作研究

大妻女子大学人間生活文化研究所 特別研究員
大妻女子大学名誉教授/前副学長
(公財)日本手工芸作家連合会会長
井上 美沙子

 1972年、日本女子大学大学院英文学専攻(西脇順三郎に師事し)修士課程を修了。英国産業革命の進展により近代資本主義経済が確立され、農村から大都市へと人口の移動集中を指摘したマルサスの『人口論』が1798年に出版された。奇しくも同年『リリカル・バラッド』という英国ロマン主義文学の萌芽を画する詩集も誕生。著者であるウィリアム・ワーズワースは、赤外線や紫外線の新発見というセンセーショナルな科学の発展と同時代に生き、その豊穣を知ってはいたが、それがもたらす負の側面も認識していた。詩を詩語ではなく日常語で庶民の情感を表現し、弱者の擁護と個性を重んじる新たな詩作を世に問うた。現在私たちが体験している地球温暖化、気候変動、飢餓、貧富の格差などの風潮もすでに予見し、評論の中で大自然と科学の融合を提唱し、自然を尊び、心のプリズムを通して人間と自然との崇高な生命のほとばしりを作品化した詩人であった。「虹」という詩の中で、自然に対する畏怖の念を本能的に感知する幼児を手本とする生き方を「子供は大人の父」と逆説的に説き、私たちが自らを大自然の一部であることを忘れ、自然の逆襲に現在遭遇するであろうという未来にも警鐘を鳴らしていた。
 こうした現代のSDGsを先取りしたかのようなワーズワースの詩学の研究を、中央大学人文研究所の客員研究員として中央大学研究叢書のいくつかに寄稿した。これを継続する。従来、翻訳や小説の研究は恒文社、法政大学出版局、八潮出版、金星堂からの刊行がある。こうしたことも視野に入れて継承したい。「英詩紀行」、貴族社会の崩壊、歴史の潮流の中で果敢に生きるテーマを扱った文学公開講座(朝日カルチャーセンター)の過去の実績に基づいて、講演会などで研究の成果の発信も続けていく。
 以前 “Kotaka’s Spirit through Flowers”の講演をオックスフォード大学でした経緯から、(公財)日本手工芸作家連合会(初代会長:大妻コタカ)の第8代会長に就任。機械化により世界に散見される<孤独の闇>の深みから、手作業の豊かな歓びへの価値の転換が人々を救う一つの光となる活動も続けていく。

 

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