No.23
東京学芸大学教育学部初等教育教員課程を卒業して、小学校ではなく公立高校の教諭になり、5年を経て、明治大学大学院文学研究科に入学した。それ以来、平安時代の文学を専門とし、本学大学院も担当して今日に至っている。これまで次のようなことを論じてきた。(1)『源氏物語』を中心として、『夜の寝覚』『狭衣物語』などの「物語文学」、(2)『栄花物語』などの「歴史物語」と「歴史的人物論」、(3)『蜻蛉日記』『和泉式部日記』『紫式部日記』『更級日記』などの「日記文学」、(4)『古今和歌集』『拾遺和歌集』『伊勢集』などの「和歌文学」、(5)文学作品と平安時代の文化や生活にかかわる「養子女論」「建築論」「庭園論」「交通論」「婚姻論」、(6)辞典・事典の編集・執筆。これは、平安文学の背景となる歴史や制度にかかるわる領域横断的な事典『王朝文学文化歴史大事典』(笠間書院、2011年)、『平安大事典』(朝日新聞出版、2015年)と、『全訳読解古語辞典』(三省堂、1995年)、『詳説古語辞典』(三省堂、2000年)などである。『全訳読解古語辞典』は第五版までになり編集は継続している。
最後は、(7)絵巻物の読解。古語辞典編集の過程で、古語理解に日本特有の絵巻物が有効であることを痛感し、その読解のありようを公開してきた。それが三省堂HPに、2013年4月から2019年11月まで連載(途中休載あり)した「絵巻で見る平安時代の暮らし」になる。各種絵巻の一部分を、画家高橋夕香氏に線描画で起こしてもらい、描かれた事物に記号をつけ、その名称を示しつつ、画面の読解をはかったのである。幸い好評を得たようなので、昨年、『図鑑 モノから読み解く王朝絵巻』として、『第一巻 源氏物語絵巻の世界』『第二巻 寝殿造の仕組みと宮中の行事』『第三巻 平安時代の信仰と暮らし』(花鳥社)の三冊に編集して刊行した。この三冊は、一般読者を対象にしつつも、文学を軸とした学際的・領域横断的な側面を持ち、はからずもこれまで歩んできたことの集成になっている。