研究課題
科研費

旧英領カリブの多文化共生を実現する少数派としての白人性とその構築過程の解明

研究代表者

伊藤 みちる

国際センター 准教授

研究種目
基盤研究(C)
研究期間
(年度)
2021年(令和3年)2024年(令和6年)

 

 

 

 本研究は、多文化共生社会を実現している旧英領カリブ3島(トリニダード・バルバドス・ジャマイカ)において、なぜ・どのように異なる白人性が構築されているのか、ヨーロッパ系市民の語りを異質なものへの対応の視点から分析し、明らかにするものである。本研究の問いは、筆者の先行研究で判明した白人純血性や社会特権に対する執着の温度差など、上記3島において同質でない白人性が構築されている事実に基づいている。白人性とは時と場合により異なる意味を持つ流動的な概念であり、多くの場合、非白人に対する根拠のない差異と優越性の信仰、社会的・経済的特権を含意する白人の意識である。
 その目的を達成するため、これまで系統的な研究が未着手であった上記3島のヨーロッパ系市民から、現地に渡航して対面でオーラルヒストリーを聞き取る計画である。これは、奴隷労働力搾取により巨富を築いた者の子孫であるとされ、植民地時代終焉以降の歴史から政治的に排除されてきたヨーロッパ系市民に関する史実を掘り起こすには、個人の経験に頼るしか方法がないからである。また統計データには表出することのない他人種への嫌悪や差別意識、優越感などの踏み込んだ語りから、ヨーロッパ系市民の側面に迫ることが可能だからである。

 そのような固定化されたイメージによって不可視化され、周縁に追いやられても、さまざまな社会特権を享受し続けている、ヨーロッパ系市民の経験にこそ、本研究は注目する。そして彼らがどのように他者との違いに気づき、どのような経験によって白人としての意識を構築してきたのかを解明したい。なぜなら、旧英領カリブ地域の多文化共生社会の包括的な理解には、少数派である彼らが多数派のアフリカ系市民などと、どのように折り合いをつけてきたのか、その経験の認識が不可欠だからである。
 本研究で得られる様々な知見は、クレオール、ジェンダー、アイデンティティ、人種、階級・階層などの複合的学術分野に応用が可能である。本研究の成果をもとに、グローバル社会における異文化への寛容という文脈で、多文化共生社会を可能にする要素の理解を発展させることができる。

 

 

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