No.22
中山 愛理
短期大学部国文科 准教授
公立図書館は、乳幼児から高齢者まで多様な人びとに図書の貸出をはじめとするサービスを提供してきた。現在、日本には3,300を超える公立図書館が存在しているが、児童に向けたサービスはそのサービスのひとつの柱となっている。日本において公立図書館の児童サービスは、明治期から山口県立山口図書館の佐野友三郎や東京市立図書館の今澤慈海らにより取り組まれたが、その際にアメリカ合衆国で取り組まれていた児童サービスを参考にしたことが知られている。このようにアメリカにおける公立図書館の児童サービス実践は、日本の児童サービスの実践に少なからず影響を与えてきた。
しかしながら、そのもととなったアメリカの児童サービス史研究は、児童サービスと児童図書館員の積極的な面のみに着目した通史や、19世紀後半の客観的事実を年代記としてまとめたアメリカの博士論文などに限られている。なぜなら児童サービスの世界が学術志向というよりも、過度に実践志向という面も関係していたためであった。
今回の研究テーマでは、児童サービス史研究の現状を視野に入れ、児童サービス史を再構築することを目指している。その成果は、日本の児童サービスの実践や歴史を学術的研究として分析する有効な視角を提供することに繋がると考えている。
具体的には、アメリカ公立図書館児童サービスの形成・確立・発展期である19世紀末から20世紀初頭を中心に図書館から児童を排除する年齢制限の緩和、提供される児童向け図書の選択、児童のみを対象とする空間(児童室)の設置などの背景にある思想、社会状況を反映した実践、新たに設置された児童サービスに焦点をあてた図書館団体や児童図書館員養成機関などの組織・それらを率いた指導者という3つの研究領域を対象としている。研究領域が広範な印象を与えるかもしれないが、過去数年にわたって蓄積した複数の研究成果を土台として、新たにジェンダー、階級、人種、権力関係の視角をもち込み分析を行うものである。
1つ1つの分析を積み重ねていくことで、社会において、税を投入し公立図書館が児童サービスを行うことがもつ意味についても考える手がかりを提供できるのではないかと考えている。