No.22
青江 誠一郎
家政学部食物学科 教授
低炭水化物食は、糖・脂質代謝の調節や肥満改善効果があるため、生活習慣病の予防・改善の食事療法の一つとして注目されています。主食からの炭水化物摂取を少なくした分、副食を多めにし、特にタンパク質・脂質を多めに摂取する食事療法です。さらに、超高齢化社会を迎えた日本では、高齢者の低タンパク質栄養状態による筋肉低下が起こり、サルコペニア(筋肉量が減少し、身体機能が低下する状態)の問題が発生しています。サルコペニアを予防する上で高齢者では、若年および中年成人に比べてタンパク質摂取量を多くする必要があります。
以上のように、生活習慣病の予防・改善を必要とする人や高齢者では、タンパク質を多く摂取することが推奨されています。しかし、タンパク質摂取量が増えれば、必然的に未消化のタンパク質、ペプチドが大腸に流入する量が増えます。アミノ酸の1種のチロシンやフェニルアラニンの代謝産物としてp-クレゾールが、トリプトファンの代謝産物としてインドールがあります。これらは、吸収されて肝臓でp-クレシル硫酸、インドキシル硫酸などの尿毒素に代謝され、腎臓の機能に影響し、高血圧や慢性腎臓病、さらにサルコペニアを引き起こす要因となることが報告されています。さらに、腸内細菌叢の乱れは、腸内毒素(リポ多糖;LPS)の産生と腸管透過性を高めることも悪化要因となります。このように、高タンパク質食は、健康に対しメリットがある一方、デメリットがある可能性も無視できません。
本研究では、1)軽度腎障害モデルマウスを用いて高脂肪・高タンパク質食が腸内細菌叢を乱し、腎臓の機能低下を促進することを確認し、どの発酵性食物繊維が抑制効果を有するか検証し、2)腸管透過性を亢進させたマウス(リーキーガットマウス)を用いて、高脂肪・高タンパク質食が腸内細菌叢を乱し、腸内毒素が腎臓の機能低下を促進することを確認し、どの発酵性食物繊維が抑制効果を有するか検証します。本計画は、腸内細菌が難消化性糖質を優先的に発酵基質とすることにより、アミノ酸の窒素代謝が制御されるエビデンスを参考に策定しました。
本研究を通じて、喫緊の課題である高齢者のフレイル予防対策に新たな栄養戦略を加えることができる基礎データとなれば幸いです。