研究課題
科研費

近現代日本の出産記録の歴史社会学的研究―リプロダクティブヘルスの実質化に向けて

研究代表者

大出 春江

人間生活文化研究所 特別研究員

研究種目
基盤研究(B)
研究期間
(年度)
2024年(令和6年)2027年(令和9年)
大出春江

 

 今年度、新規に採択された科研は24K03193「近現代日本の出産記録の歴史社会学的研究ーリプロダクティブヘルスの実質化にむけて」というテーマである。これは2017年度、2021年度科研で進めてきた共同研究の延長にあり、またこれまでの総集編という意味をもっている。
 近年の少子化の進行を背景に、出産を健康保険の対象とする検討会もはじまり、出産や出産環境については新たな関心がもたれている。しかし、今回の科研がめざすのはもう少し長いスパンで捉えようとするものである。出産は日常生活の一部であって研究対象となりにくく、かつてはその習俗が民俗学の研究対象になるくらいだった。1980年代以降、フェミニズムの興隆とともに女性の身体を社会史的に捉える研究も登場し、社会学・文化人類学・歴史学の分野から出産研究に取り組む動きが登場してきた。
 本研究もまたこの流れに位置づけられるが、では独自性がどこにあるかといえば、社会学や文化人類学の研究者だけでなく助産学の研究者も参加し学際的にかつ実証的に進めていることである。さらに、2017年度科研以降おこなっている、全国各地の助産所および産婆・助産婦に関する文書資料を収集しデジタル化したものを、独立行政法人国立女性教育会館(NWEC)と連携し資料公開を開始した点にある。
 これらの研究の出発点には出産の医療化に対する産む女性の立場からこれを相対化する視点がある。もう少し踏み込んでいえば、リプロダクティブヘルスと助産実践との間にある親和性を言語化し、これを評価していく必要があると考えている。そのためにも現在、法律や制度上の制約と少子化という構造的条件によって開業助産所が年々減少する中で、かつて助産職者が地域で果たしてきた役割は記録し保管しておかなければならないと考えている。その上で、これらの助産実践のもつ意義、日本の産婆が果たしてきた役割を明らかにしておく必要がある。これに加え助産の実践を知ることのできる助産録を通じて、およそ100年単位で女性の身体の変化を捉えることもできればと構想している。現在は戦前期日本で出版された産婆雑誌のうち、日本各地の大学図書館等に残されている主要な産婆雑誌のデジタル化を進め、日中戦争以降の国家による生殖コントロールを中心に『戦争と産婆』として出版を予定している。以上の研究を通じて、近現代の出産と助産者および社会制度の変化を実証的に明らかにすることをめざすものである。

 

researchmap

CONTENTS