研究課題
科研費

テーミングを用いたAR表示による体験の変化に関する研究

研究代表者

磯山 直也

社会情報学部情報デザイン専攻 専任講師

研究種目
基盤研究(C)
研究期間
(年度)
2025年(令和7年)2027年(令和9年)
磯山直也

 


「拡張現実感(AR: Augmented Reality)」という技術が、私たちの日常生活に少しずつ取り入れられるようになってきています。ARとは、現実世界にバーチャルな情報を重ね合わせて表示する技術です。このバーチャルな情報には、視覚だけでなく、音や香りといったさまざまな感覚情報が含まれる可能性があります。
本研究では、その中でも特に「視覚的なAR」に着目し、人の行動や思考にどのような影響を与えるのかを調査しています。視覚的なARの身近な例としては、スマートフォン向けのゲーム「Pokémon GO」で、実際の風景の中にモンスターがいるように見せたり、「IKEA Place」というアプリで、家具を自分の部屋に配置したイメージを映し出したりするような使い方があります。
この研究では、ARを提示する方法として、ビデオシースルー型のヘッドマウントディスプレイ(VST-HMD)、スマートフォンの画面、そしてプロジェクションマッピングといった手法を用いています。プロジェクションマッピングも、現実の空間に直接情報を投影する点で、ARの一種として扱っています。
研究の一例として、部屋の中にゴミが落ちているように見せるAR映像を提示した場合、それを消したあとも「部屋が汚れている」という印象が残るのではないか、あるいは廊下に水たまりがあるように見せたあと、そのAR表示が消えたとしても、人はその場所を避けて歩くのではないか、といったことを考えています。
また、本研究では「テーミング(Theming)」という考え方も取り入れています。テーミングとは、特定のテーマやコンセプトに基づいて、製品やサービス、イベント、空間、デザイン全体を統一的に演出する手法のことです。たとえば、ある雰囲気や感情を引き出すために、ビジュアルや音、香り、物語、文字などの要素を調整し、体験全体を設計することを目的としています。
大規模な仕掛けを必要とするテーミングは実現が難しい面もありますが、AR技術を活用すれば、比較的簡易な仕組みでも同様の効果を生み出せる可能性があります。体験の前に、ARによって「これから何が起こるか」という印象を与えることで、その後の感じ方や行動が変わることが期待されます。
本研究では、ARによる簡易なテーミングを通して、特定の物や場所に対する印象を操作し、体験そのものをデザインできるのではないかと考えています。たとえば、普通の部屋でもARで工夫を加えることで、幻想的な空間に感じられたり、特別な意味を持つ場所のように見せることができるかもしれません。
このように、AR技術をただ楽しむだけでなく、安全で安心な使い方や、より効果的・効率的な活用法を探ることも、本研究の大きな目的のひとつです。今後は、さまざまな人々に実際に体験していただきながら、AR技術が持つ可能性と影響を、より深く明らかにしていきたいと考えています。

 

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