No.24
山田 幸三
社会情報学部社会生活情報学専攻 教授
日本社会は、生産年齢人口の減少傾向と東京一極集中に加えて阪神・淡路大震災、東日本大震災、能登半島地震という歴史的災禍に見舞われ、2020年初頭から拡大した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって多くの業界が深刻な打撃を被った。とりわけ地場産業を構成する中小企業の事業の縮減によって、地域の経済再生と活性化は現代的課題となっている。その重要政策として「地方創生」が打ち出され、地域を支える地場産業の活性化はこれまで以上に注目されている。
地域の独自性や優位性を活用して課題を克服し、経済的、社会的価値を創出するためには、アントレプレナーシップ(企業家活動)によって地域の独自性や優位性を実現できるイノベーションの創出が必要である。既存の制度や仕組みを新たな方向性で再構築する機会を発見する主役は、他の地域から来た人や先入観のない若い人、馬力のある人たちという「よそ者」「若者」「馬鹿者」とされる。これらの人々の慣例に囚われない視点は新たな変化の契機として確かに重要である。しかし、その変化を持続する主導的役割は、地域に根ざした地場産業の革新的な中小企業が果たしうるのではないかということが、本研究の基本的な問題意識である。
歴史的な経緯の下で長く存続し、地場産業を構成する中小企業の主流はファミリービジネスである。地場産業の仕組みや地域の資源を環境変化に応じた変換によって価値を生み出すには、ファミリービジネスの理論や概念に基づく視座から旧来の制度やビジネスシステムを再構築する企業家活動と事業変革が必要であり、そうした活動を一過性ではなく持続させる要因の解明が求められる。
本研究は、地域を拠点に長く事業展開するファミリービジネスが、ファミリービジネスの特性に関わる資源の蓄積、企業家活動と事業変革を通じてどのような新機軸を打ち出し、地域の経済再生と活性化にいかなる役割を果たしうるかについて、経営者への聞き取りによる実地調査と公表資料を基に、企業年齢、規模、創業以来の理念、何代目の経営者か、外部株主等に関するデータなどを併せた定量的・定性的分析によって考察する。