研究課題
科研費

旧英領カリブの「白人」のエスノグラフィー: 少数派としての白人性構築過程の究明

研究代表者

伊藤 みちる

国際センター 准教授

研究種目
基盤研究(C)
研究期間
(年度)
2025年(令和7年)2028年(令和10年)
伊藤みちる先生

 


 白人性とは、社会的に構築された「白人」とされる人に付随する社会的・文化的・歴史的な特権や価値観、規範を指す概念である。本研究は、旧英領カリブ3島トリニダード・バルバドス・ジャマイカの白人性を「白人」のオーラル・ヒストリーから分析した2017年度と2021年度に科研費助成を受けた研究の後続研究であり、これら3島における白人性構築過程をエスノグラフィックな方法で探求するものである。
 各島の人口調査で「白人」だと自己申告した者は、それぞれ総人口に対して0.65%、2.7%、0.16%を占めるに過ぎない。このように圧倒的な少数派にもかかわらず、また表面上は多文化共生社会が展開されているにもかかわらず、多数派であるアフリカ系やインド系は、「白人」たちが植民地時代に徹底的な奴隷搾取により築いた巨富を現代まで継承し、現在も富と機会を独占し、社会特権を享受し続けていると糾弾する。
 実際に、旧英領カリブの「白人」たちの中には、絶大な財力をちらつかせて、21世紀現在もイギリスの政界・経済界に強い影響力を持ち続けている者もいる。しかし、社会福祉で生活している貧困層に属す「白人」が存在することも事実である。イギリスから独立して60年が経っても、かつて植民地化した「白人」への従属を強いる精神的な束縛は、亡霊のようにまだ有効なのか。人口の9割以上が非白人で、大統領も首相も政府要職もアフリカ系やインド系が占めるのに、なぜ「白人」は社会的特権を持っていると糾弾されるのか。「白人」が優遇されているというなら、優遇しているのは誰なのか。なぜ優遇するのか。そのような社会で、「白人」たちはどのような経験をし、どのような身の振り方を選択しているのか。先行研究でインタビューをすればするほど沸いてきた疑問に、本研究ではエスノグラフィーを通して答えようとしている。
 人種差別的な旧英領カリブの「白人」を描き出すさまざまなナラティブの発信元はその当事者である「白人」ではない。少数派の存在や言い分、そして彼らならではの経験は、多数派の声に消されがちである。そして多数派の一方的な偏見や政治的策略によって生成されがちである。本研究を通じて、そのように先入観と偏見を基に虚構の姿をつくりあげられて、個人としての姿を軽視されてきた「白人」個人の経験を丁寧に記録して、彼ら「白人」が生きてきた歴史的・社会的な全体像をつかむことで、旧英領カリブの包括的な理解が進むはずである。

 

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