No.24
福島 哲夫
人間関係学部人間関係学科 教授
今回採択された研究課題は「心理療法におけるポジティブ感情の感情調節介入モデル構築とその実証的検討」(基盤研究C)というものである。この研究は、ポジティブな感情の調整がうまくできない人への心理的支援が、どのような効果をもたらすのかを明らかにすることを目的としている。これまでの心理療法では、不安や怒り、悲しみなどのネガティブな感情の調整の難しさが主な研究対象とされてきたが、近年では、うつ病や不安障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などにおいて、ポジティブな感情の調整が困難になることも明らかになってきている。たとえば、うれしい感情を感じると不安になったり、楽しい気持ちを抑えられず行動が極端になったりすることもある。
このようなポジティブ感情の問題は、治療の対象として十分に扱われてこなかったが、ポジティブ心理学の発展によって、前向きな感情にも心の健康を高める役割があることが示されつつある。特に、喜びや幸福感といった感情は、人間関係の改善や心身の健康、人生の充実につながる力を持っていると考えられている。一方で本邦ではセラピストもクライエントも「褒める」ということが苦手な人も多く、「クライエントを褒めてはいけない」と教える心理学者も「セラピストに褒められると不信感が湧く」というクライエントも存在する。
そこで本研究では、そうしたポジティブ感情の調整に特化した心理的支援の効果を、初めて本格的に検証しようとしているものである。50人の参加者を対象に、半数にはポジティブ感情に働きかける特別なカウンセリングを、もう半数には一般的なカウンセリングを行う予定である。中堅の臨床心理士複数名に協力をあおぎ、一般の成人をクライエントとして募集して、心理検査や面接の記録を分析し、どちらの方法がどのような効果を持つのかを比較検討する予定である。特に、どのようなタイプの人に効果が出やすいのかといった点も明らかにしたいと考えている。
また、複数のセラピストが両方のグループを担当することで、セラピスト要因とよばれる治療者の違いによる影響をできるだけ少なくし、支援内容の違いによる効果を正確に測ろうとしてる。これにより、特定の心理療法に限らず、さまざまな場面で使える効果的な支援技法を開発することを目指すものである。
人間生活文化研究所主宰の「科研塾」のご指導により、「今回の研究の新しさと意義を、しっかりと自信をもって記述する」という点に注力した結果、採択となった。この場を借りて改めて感謝の意を表したい。