No.17
【著者より】四季の差が大きい日本では、各季節の特色に対する関心は歴史的な積み重ねがあります。季節と人々はどのように折り合いを付け、楽しみ、意欲的創造的に過ごすかの工夫や、それと人生との結びつきが、古典文学での四季の事象についての記述に表れているように思います。
目次を示せば、〈春〉霞・梅・桜(1.2.3)・山吹・藤、〈夏〉菖蒲・時鳥・梅雨・蛍、〈秋〉七夕・盆・荻・萩・月(八月十五夜)・紅葉・霧、〈冬〉時雨・冬の夜(1.2)・雪(1.2)の項に分けて叙述しています。
それらの事象は、人々を取り巻き変化して循環する環境であり、生活上に設けた折々の節目ですが、昔の人々が時に応じて、生活する身近な周囲・環境とともに生きてきたということで、これらの事象は視覚・聴覚・嗅覚、そして触覚まで含めての美的な楽しみであり、生活の節々で人々の心の世界まで様々に色づけ豊かさをもたらし、人生や世界への思索を導いていることもあります。
千年前と現代では、生活上のあらゆることが異なっていますが、どこか意外なほど変わらない意識とか好みがあるようにも思います。誤解を恐れず言えば、日本的「和」のテイストとでもいうものには、変わらぬ親しみや憧れがあるように思います。
本書では、日本人が「和」を重んじ、関わりある人と人の結びつきの中で生きる実感を持つ上で、採り上げた個々の事象が、共通の文化的イメージを前提とし、各状況での様々な感情や対応の多様性を仲介にコミュニケーションを深め広める役割を果たしていることも確認できます。
また、現代語訳を多く示して古語の壁を可能な限り低くしてあり、千年前に示された日本人の意識の原点を確認し、予想外の共感性や新たな発見を得られることで、現代を歩む力になることも期待されます。
大妻女子大学名誉教授(平成31年3月まで文学部教授)大妻女子大学人間生活文化研究所特別研究員。和歌文学会、中古文学会、解釈学会会員。専門は平安時代の和歌文学研究。昭和24年、東京生。東京教育大学文学部卒、同大学院修士課程修了。『金葉和歌集 詞花和歌集 』(「金葉和歌集」を他1名と共著 新日本古典文学大系 岩波書店・平成元年刊) 、『平安時代後期和歌論』(単著 風間書房・平成12年刊)、『金葉和歌集 詞花和歌集』(「詞花和歌集」を単著 和歌文学大系 明治書院・平成18年刊)など。現在、『道命阿闍梨集注釈』の書籍化と、新日本古典文学大系『金葉和歌集』の文庫化の準備をしつつ、気象協会のweb版エッセイ(tenki.jpサプリ)で「意外と知らない百人一首の世界を探求」を継続している。