研究課題
科研費

19世紀日本文学史における仮名垣魯文の史的位置に関する研究

研究代表者

髙木 元

文学部 教授

研究種目
基盤研究(C)
研究期間
(年度)
2021年(令和3年)2023年(令和5年)

 

 

 

 日本文学史は江戸時代と明治時代とで劃期されてきた。現在でも高校では明治維新前は「古典」、以後は「現代文」として扱われ、さらに研究者の世界でも近世文学と近代文学とでは別の学会組織である。政治経済史と文学史とは、無関係ではないにしても、軌を一にして論じられる問題ではないはずである。とりわけ、江戸時代を近代に至る過渡期としての前近代として捉える発展史観に支配されていては、精確な記録としての文学史など記述出来るはずがないからである。
 ところで、仮名垣魯文は文政12(1829) 年生れ明治27 (1894) 年に65歳で歿するまで、幕末開化期を通じて精力的に活動した戯作者である。代表作としては開化期の社会風俗を、近世期の滑稽本というジャンルの様式に拠って写し取った『安愚楽鍋』(明治4~5 年)や『西洋道中膝栗毛』(明治3~9 年)があり、多くの研究も此等のテキストに集中しているが、実は近世期から明治初年にかけて多岐に渉る著述を遺しているのである。
 具体的には、切附本と呼ばれる安政期の鈍亭時代を主として粗製濫造された廉価な抄出本、慕々山人の名で書かれた習作期の艶本、一貫して書き続けたのは合巻と呼ばれた草双紙で、これは明治期まで続く。さらに、瓦版や疫病災害のルポルタージュ『安政見聞誌』などは、ジャーナリズムの側からの研究が存している。特に注目すべきは、浮世絵の塡詞(画中の解説文)である。美術史の側からは無視され、文学研究の側からも非文学的な著述として、研究対象とはならなかった。
 また、端唄、都々逸など歌謡俗曲集の編著もあり、とりわけ歌澤節が多いようである。他作の画譜、絵手本などの序跋も多数執筆している。さらに、大半は既に散佚してしまったものと思われるが、報条や引札(広告チラシ)を多数書いており、これらは貼込帖などに僅かに残存している。その他、近代風俗本である花柳本、割烹案内などの序跋や、新聞記事(雑報)、俳諧、狂歌などがある。
 これらの近代的な文学観からは研究対象として扱われなかった非文学的な文章を、網羅的に蒐集調査し、同時に製版から活版へというメディアの変遷を踏まえて、幕末維新期を通じて、書かれ読まれてきた戯文の実態を見ていきたい。
 本研究は、近世近代を通じて活動した代表的な戯作者魯文に注目し、その行跡を丁寧に調査することにより、日本19世紀文学史を記述し直そうと志すものである。

 

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