No.16
大出 春江
人間関係学部 教授
今年度、研究課題として申請した「日本の産婆史料のデジタル化と出産記録に基づく助産の歴史社会学的研究」(研究代表者 大出春江)が基盤研究Bとして採択されることになった。この共同研究は家族社会学、文化人類学、民俗学、助産学を専門とする研究者が国立女性教育会館・情報課と連携して進めていく。研究のきっかけは2017年度~2019年度に実施したJSPS科研費17K04151「日本の出産文化の歴史社会学的研究-リプロダクティブヘルスと助産所の機能を中心に」(基盤研究C)が元になっており、これを継続する形で、2017年度科研と同様に社会学・ジェンダー領域で申請したものである。
本研究の趣旨を申請書の冒頭を一部引用する形で紹介する。「本研究の最終目標は、女性にとって子どもを産み育てることが心豊かな経験となり、妊娠・出産が自らの肯定的な身体経験として受け止められることの実現にある。安全の実現のために医療の視点から妊娠・出産はその管理の対象とされてきた。一方、女性が自らの妊娠・出産を人生の出来事として引き受け、決定していくことは極めて重要なことである。助産者は同性として、妊娠・出産する女性と医療者との媒介となる固有の存在である。にもかかわらず生命の安全と産む女性に<寄り添う>ことを職業的に期待されてきた産婆・助産婦が果たしてきた役割と実践の記録・保管はけして十分ではなかった。」
リプロダクティブヘルスに関わる以上の問題関心を研究者間で共有し、本研究は、産婆・助産婦が果たしてきた役割と実践を通して日本の出産を記録・保管し、これを歴史社会学的に評価し位置づけることを目的としている。産む女性と助産者との相互作用によって成立する<正常>な出産の成立条件、社会的環境の考察を通して、現代社会の出産環境を相対化することをめざす。
これに加えて、本研究によって収集された資料をデジタル化し、「日本の産婆・助産婦データベース」として公開すること、そのようにして国内外の研究者、産む女性と出産を援助する助産者が広く活用できる文化資源を整備し、次世代に継承できる形にしていきたいと考えている。