研究課題
科研費

『竹取物語』を中心とした9世紀文学圏における仏教受容の研究

研究代表者

久保 堅一

文学部 教授

研究種目
基盤研究(C)
研究期間
(年度)
2022年(令和4年)2024年(令和6年)

 

 平安時代に多彩な作品が生み出され、文学史のうえでも主要なジャンルとなっている物語文学ですが、それがいかにして誕生し、そこにいかなる要因があったのかという問題については、必ずしもその全容が明らかになっているわけではありません。しかし、物語文学がいかにして誕生したのかという問いは、仮名を使用して人間の感情を繊細に描出し、緻密な虚構の世界を作ろうとする営為の背景を問うことであり、文学作品の創造について考えるうえで極めて大きな意味を持ちます。日本文学研究にとって、常に新たな視点を確立しながら継続してゆかねばならない、重要な問題系といえるでしょう。

 こうした観点から何よりも対象にすべき作品が、現存最古の物語文学『竹取物語』です。物語文学の誕生の背景を闡明するには、まさに物語の初発期に成立した『竹取物語』の徹底的な調査が不可欠です。その際に重視すべきは、この物語が多様な和漢の典拠をもとに創造されていたという点です。『竹取物語』は、9世紀の男性知識人がさまざまな典拠を駆使して創作した物語文学なのであり、その典拠の詳細な調査をおこなったうえで、書承の元となった資料を発見してその創作の背景を明らかにし、作者の文学環境の実態に迫ることによってこそ、物語文学誕生の現場に肉迫できると考えます。

 しかしながら、すぐれた先行研究も備わっているものの、こうした研究が活況を呈しているとはいいがたいのが現状です。特に、『竹取物語』成立のための必須の教養であった仏教(知識、思想)の受容については、その調査は停滞傾向にあります。代表者は、これまでの研究で、『竹取物語』作者が仏教に尋常ではなく詳しい人物であり、作中の人物造型や作者の人間理解に寄与するものとして仏教が存在していたことを明らかにしてきました。本研究はそうした研究をさらに発展させるべく、『竹取物語』を中心に、同時代テクストにおける仏教受容を調査することで、その作者層がどのような仏教的教養を身につけ、それをどのように創作に活かしていたのかを明らかにし、物語文学誕生の背景に光を当てることを試みるものです。

 仏教は、人間感情を描く物語文学が誕生するにあたっての大きな要因だったのではないか。仏教に触発されるようにして物語文学を創作した文学圏があったのではないか。そうした可能性を考えながら、『竹取物語』や同時代テクストを丁寧に分析してゆきます。

 

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