特別研究員

ものつくりに向けた空間認識力の分析へ

大妻女子大学人間生活文化研究所 特別研究員
元大妻女子大学教授
堤 江美子

堤先生

 人体の肥痩は、骨格という比較的安定した基盤の上に分布する脂肪や筋肉の量とその範囲の違いとして捉えることができます。そのため、被服設計では最終的に外形として現れる体形の違いを分析対象とします。多様な人々にとって快適な衣服を設計するためには、単なる凹凸情報としてではなく、骨の計測点などを基準とした生物人類学的な情報として人体を把握し、比較・分析することが重要です。私が本学に赴任したのも、複数の人体を三次元計測し、その形状を分析する研究が求められていたことが一つの理由でした。
 これらの研究成果は、家政学部での「被服図学」の講義・演習において、体形に適合した衣服形状、ひいては型紙設計を理解するための教材として活用しました。しかし、授業を進めるなかで講義内容以前の課題があることに気づきました。それは、多くの学生が投影図を読み取ったり、そこから立体の全体像を思い描いたりすることに少なからず困難を抱えているという事実でした。
 このことを契機に、私の研究の主眼は女子学生の空間認識力の分析と育成へと移っていきました。当時、ものつくりの基盤となる能力として空間認識力への関心が高まりつつあり、平面上の投影図から立体形状をイメージする能力を測る切断面実形視テスト(MCT)などを用いて、さまざまな調査研究が行われていました。
 空間認識力を育成するためには、まずMCTなどの空間テストの誤答を分析し、どのような認知過程でつまずいているのかを理解することが重要です。その結果、3D-CADやCG教育だけでは、「平面に描かれた形を頭の中で立体へ変換する力」や、「切断や回転といった空間的な操作を心の中で行う力」は必ずしも十分に育成されないことも分かってきました。見えているようで、本当には見えていない――そこに空間認識力育成の難しさがあります。
 なお、海外研修時に中欧の大学生を対象として行った同様の研究は、当地の研究者たちの関心を呼び、この分野への新たな研究の広がりを生みました。このように、ものつくりを支える基礎として、空間幾何学教育や空間認識力育成の重要性が改めて認識されつつあります。

 

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