
No.26
金 ヨンロン
文学部日本文学科 准教授


本研究では、「法と文学」研究の一環として、憲法と日本近現代文学を取り上げます。周知の通り、占領下の日本で公布された日本国憲法は、約80年間、戦後日本のあり方を規定してきました。憲法をめぐる議論も様々な形で行われましたが、特に本研究で注目するのは、そうした議論の中心に文学者が存在していたということです。例えば、今まさに話題になっている憲法第9条(平和憲法)は、憲法第1条の象徴天皇制とともに、敗戦直後から文学者たちの関心を集めました。太宰治も宮本百合子も書いています。他にも多くの作家や批評家、文学研究者が憲法への持続的な関心を示してきました。そうした文学作品、批評、研究などを内容別、時代順にまとめることが本研究の第一の目的です。つまり、日本近現代文学における憲法表象を明らかにすることです。
その上、本研究で取り組みたいと思うのは、憲法を中心に据えた新たな批評理論を構築することです。単純化すれば、文学作品の政治的読みから憲法的読みへのシフトとでも言えるのでしょうか。マイノリティに対する差別解消を主題とした現代文学は、憲法を直接引用しつつ、憲法に照らして現状を捉え、憲法に見合った社会を実現するよう想像力を駆使しています。そうした文学を通じて、「コンスティテューショナル・クリティーク(Constitutional Critique、憲法に根ざした批評)」という新たな分析概念を提示することが本研究の最終的な目的です。文学という文化現象を捉える方法として批評理論を用いるだけではなく、社会をより良い方向へ変えるという、批評理論が本来もっているはずの実践的なアプローチを模索することに本研究が一助できればと思います。