
No.26
小野 陽子
データサイエンス学部 教授


データサイエンス(DS)教育におけるPBL(課題解決型学習)は拡大しているが、その多くは既存課題に対する分析・モデリング演習に偏り、「データ思考の涵養」や社会的意思決定への接続は十分に達成されていない。本研究は、共感育成をPBLの核に据えることで、多様な学習者がリテラシーとしてのDSを獲得できる新たな教育環境と教材を創出することを目的とする。すなわち、「分析する力」から「他者と共に意思決定する力」へとDS教育の軸を転換するものである。
本研究の独自性は、共感を教育理念にとどめず、「測定可能な対象」として扱う点にある。DS倫理をテーマとした共感育成型PBLを設計し、生成AIの、そして更にAmbient Intelligenceへ急速な技術的・社会的変化にともなう現代的な課題を「自分ごと」として扱う協働環境を構築する。同時に、共感の発現・変化を捉える指標を開発し、DEI(多様性・公平性・包摂性)の観点からその教育効果を定量的に検証する。これにより、これまでブラックボックスであったPBLにおける協働の質を可視化する。
さらに、中高校生を対象として、専門的な分析技術に依存しないデータ思考涵養教材を開発する。データから意味やストーリーを構築する活動を通じて、多様な学術領域へのDS教育の波及を実現するとともに、統計学を含む数学や情報科学に対する心理的障壁をもつ学習者の興味関心を喚起する。これにより、DSを一部の専門人材の技術から、誰もが関与できるリテラシーへと再定義する。
また、インクルーシブ・リーダーシップの観点から、PBLにおける学習プロセスの評価指標を構築する。教育プロセスを評価する新たな尺度の提示は、成果物中心の評価から協働過程の質的評価への転換をもたらし、教育実践の根本的再設計を促す。
本研究は、3つの課題(1)共感育成型PBLの構築、(2)共感指標とDEI効果測定法の開発、(3)中高校生向け教材開発、から構成される。これらを統合することで、共感と多様性が協働および意思決定に与える影響を明らかにし、課題設定から解決に至るプロセス全体を高度化するDS教育モデルを提示する。最終的には、日本におけるDEIの停滞を打破し、多様な人々が価値を共創する社会の基盤形成に資することを目指す。
本研究の創造性と社会的意義は、DS教育を一過性の流行として一過性のスキル教育とするのではなく、多様な分野へ浸透させ持続的に高度化する基盤を構築する点にある。
なお、本研究は、令和7年度大妻女子大学戦略的個人研究費の助成を受けた研究課題「DS技術を活用した大学数学学習支援プログラムの構築とその教育効果測定」を遂行する過程で得た気づきを元に申請したものである。