巻頭言
巻頭言

科学技術と社会の発展

 科学技術の発展の結果として、今もっとも注目を集めているのが、人工知能AIで、連日のように報道されています。特にChatGPTに代表される生成AIは、自然言語処理により、人間との自然なコミュニケーションが可能で、質問に対しての回答だけでなく、文章の作成や添削、校正、要約などが可能です。業務効率化のために企業や自治体での導入事例が紹介される一方で、様々な懸念も出されています。特に問題となっているのが、個人情報の流出や著作権侵害、偽情報の拡散などにつながる可能性です。さらには米非営利団体「センター・フォー・AI・セーフティ」が5月30日に、「AIによって絶滅するリスクの軽減は、パンデミックや核戦争など、他の社会規模のリスクと並んで世界の優先事項であるべきだ」との声明を出し、AIの急速な発展に危機感を示しています。
 さまざまな科学技術の発展は、人類に豊かさをもたらしましたが、同時に地球環境の悪化や分断といった諸刃の剣となってきました。原子力の利用では、核兵器開発などの軍事利用は悪で、発電などの平和利用は善とされていました。しかし3.11東日本大震災での福島原子力発電所の事故は、原子力の安全神話を崩壊させました。平和利用であっても、現代の科学では完全にはコントロールできない核エネルギーや放射性廃棄物の問題など、二酸化炭素削減による地球温暖化防止をはじめとする発電の効率化のために、見過ごしてきた(隠蔽してきた)問題がクローズアップされました。
 AIなどの情報技術は急速に発展し、人類がコントロールできない科学技術を開発するリスクは、今後もますます増大すると考えられます。リスクを単に強調するのではなく、リスクを明らかにし、諸刃の剣であることを認識したうえで、様々なステークホルダーと連携し、人類を豊にする利用方法を議論することが、今後ますます重要だと思います。

文学部学部長 増野弘幸

大妻女子大学家政学部 学部長

市川 博

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