No.20
赤澤 真理
家政学部 准教授
私は日本建築史、主に平安時代から江戸時代頃の上流住宅の歴史を専門にしています。歴史的な人々にとって、ひとつの理想の住宅であった、源氏物語絵に描かれた住宅像に着目し、後世における受容過程や考証研究の実態について研究してまいりました。
本研究は、10世紀から14世紀頃の天皇の住まいである内裏(だいり)、院の住まいである院御所を中心に、后妃・女院・女房などの生活空間と儀礼に着目するものです。
従来、中世の内裏や院御所において、女性たちがどのような場所で生活していたのかについては、十分な検討がなされてきませんでした。
本研究は、建築の内部空間に置かれた打出(うちいで)・几帳(きちょう)・御帳(みちょう)といった調度品に着目し、それらを活用することで、女性の空間がいかに創られたのかを考察していきます。
具体的には、絵巻物や屏風などの視覚的史料、古記録・日記・文学等の文献史料、指図等、女性による儀礼や生活空間を題材としている史料を調査・収集していきます。
中世の宮廷は、寝殿造の空間が変容する過渡的な時代でした。そうした時代に調度品を用いて、旧来の伝統をどのように継承し、あるいは変容していったのかに注目していくことで、実像の見えにくかった中世住宅史を見直すことを目指しています。
本研究には、分担者として、美術史・服飾史の研究者にご協力をいただいています。女性の営んだ生活空間の意匠や機能など、美術史的・生活文化史的な観点から検討をすすめてまいります。
写真は、2021年に文化庁リビングヒストリーの助成を得て製作・再現した打出のしつらいです(三重県立斎宮歴史博物館特別展示「姫君の空間-王朝の華やぎと輝きの世界へ-」)。あたかも美しい女房が座っているかのように、御簾の内に装束を置いて空間を演出しました。打出は、儀礼空間における后の権力や教養を示す調度ともなりました。来年度には都内の美術館で展示していただく予定となっています。こうした打出がいつどのように成立し、消失してゆくのかについて、明確にしていきたいと思っています。