研究課題
科研費

近代日本における洋式製本の移入と定着

研究代表者

木戸 雄一

文学部 教授

研究種目
基盤研究(C)
研究期間
(年度)
2023年(令和5年)2025年(令和7年)
木戸雄一

 

 日本の書物は19世紀後半に和本から洋装本へと転換した。この外形も構造も大きく異なる二つの製本様式間の移行には、複雑な力学がはたらいていた。そこでは、技術者の水準や在来技術とのすり合わせ、製本材の入手難度と代用素材、製作におけるコストなどといった技術的要因と、書物の用途やイメージに関わる文化的要因が複雑にからみあい、書物というメディアの転換期に固有の様式を形作っていたのである。過渡期の多様な製本技術とそれによって生み出された書物の様式は、それを売り、買い、読んだ人々の書物に対する意識といかに交差するのだろうか。本研究は、19世紀後半から20世紀初頭にかけて洋式製本は日本にいかにして移入され定着したかを問う。
 江戸時代は書型によって書物のジャンルや内容=「格」が決まっていたが、洋装本の登場によって従来の強固な書物の「格」が解体されつつも、一方で新たに、あるいは過去を引きずる形で各々の分野やジャンルに相応した書物のかたちが成立していた。それらの分類と体系化によって書物の形態と内容との関係の分析や、書物の形態と読者の関係の分析へと進むことができるが、書物の技術的な変化と書物についての人々の認識はかならずしも不即不離の関係にあったわけではない。本研究は書物製作という技術的レベルと、書肆および読者の書物についての認識という文化的レベルを慎重に区別しながら、なお互いに関係するものとして考察を進める。研究は三つの方法によって進める、①解体調査を含めた書物の実物調査によって、洋式製本移入期の技術的な実態と日本における技術的展開の過程を明らかにする。②製本語彙の語彙史的調査および書店の目録や出版広告の調査を行うことによって、洋式製本移入に伴う職人・書肆・読者における書物の用法や書物観の変容を明らかにする。③官民の初期洋装本刊行の出版史的な調査を①と接続することによって、洋式製本の移入と展開を歴史的に跡づける。以上の方法を組み合わせることによって書物製作の技術と書物に対する意識の変遷を関連付けつつ、最終的に近代日本の洋式製本移入史を構築する。
 また、本研究の成果から、近代書誌学に必要な用語体系の構築、初期政府印刷局の総合的な研究、19世紀から20世紀における洋装本の世界的な伝播についての比較書誌学へと研究を展開することができる。

 

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