研究課題
科研費

タゴール仏教文学とその思想的背景
―英語文学が繋ぐタゴールと近代日本仏教

研究代表者

大平 栄子

短期大学部英文科 教授

研究種目
基盤研究(C)
研究期間
(年度)
2023年(令和5年)2025年(令和7年)
大平栄子

 

 ラビンドラナート・タゴール(1861-1941)は、英詩Gitanjali によって、1913年にアジア人として初めてノーベル文学賞を受賞したインドの作家です。タゴールは詩人としてのみならず、その世界平和への熱情と、当時世界を席巻していたナショナリズム批判によって、思想家としても国際的に高い評価を受けていますが、その特色は大乗仏教についての深い理解にありました。
 仏教の源流に近い部派仏教を重んじ、大乗仏教をそこからの派生として軽視する当時の西欧の仏教学界と、その影響下にあってインドにおいて、大乗仏教を高く評価するタゴールの独自性は際立っています。しかし、その背景と原因については、これまでほとんど論じられることがありませんでした。
 こうした研究界の現状を踏まえ、タゴールの思想形成の背景にあったものが岡倉天心をはじめとする日本の思想家たちとの活発な交流であり、彼らが著した膨大な英文の著作であり、そこに見られる大乗仏教の独自の解釈であったとする独自の仮説の証明が、今回の研究の目的です。それによって、タゴールの思想の独自性の由来を解き明かすとともに、19世紀後半から20世紀初期の時代において、国境を越えたアジアの思想交流に果たした英語文学の重要な役割に光を当てたいと考えています。
 近現代イギリス文学を研究してきた私が、なぜインドの詩人、しかもその大乗仏教観に興味を持つに至ったかについては、フォースターの『インドへの道』(1924)に導かれたインド現地でのフィールドワークと、デリー大学客員教授としてのインド滞在が大きな契機となりました。以来、継続的に科研費をえて、「印パ分離独立文学」に焦点を合わせたインド英語文学の体系的把握を試みてきました。
 その過程で、タゴールの英文の著作がほとんど手付かずのままであることを発見し、タゴールと岡倉天心・野口米次郎ら日本人との親交も明らかにすることができました。さらに、明治・大正期に日本人の仏教者・仏教研究者によって150冊にも及ぶ英文の著作が著されている事実を発見しました。
 さらにタゴールの思想と大乗仏教の思想の類似性、近代日本の仏教改革運動とタゴールの深い関わり、両者を結びつける英語文学、といった興味深い視点が次々と浮かび上がってきました。日本仏教とタゴールに共通する「大乗仏教」、両者をつなぐ「英語文学」という二つのキーワードに着目し、その関係性を解きほぐしていくことによって、英米中心だった従来の「英語文学」の領域を広げることができれば望外の喜びです。

 

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