研究課題
科研費

視線と⾝体の引き込みによる⾃⼰認知発達過程の再記述:質的および量的な縦断研究

研究代表者

宮﨑 美智子

社会情報学部 准教授

研究種目
基盤研究(B)
研究期間
(年度)
2023年(令和5年)2027年(令和9年)
宮﨑 美智子

 

 鏡に写った自分の姿を自分であると認識できる自己鏡像認知の能力は、自己認識の発達における重要なマイルストーンであり、古くはダーウィンも我が子の観察記録を残しています。1970年代にチンパンジーやヒト幼児を対象に自己鏡像認知を評価するマークテストが考案され、以後50年以上にわたり、多くの研究者が多種多様な動物種で検討してきました。マークテストは、鏡像を通して自分の顔に密かにつけられたマークを発見し、自発的に実物の身体からそれを触ったり消そうとしたりする自己指向性行動が見られるかによって自己鏡像認知を評価するテストです。
  先行研究では、マークテストの評価は自己指向性行動の出現に重きが置かれ、マークが置かれる身体部位や手の伸ばし方など、身体や行為の側面についてはほとんど考慮されてきませんでした。私たちの研究グループでは、数年前から画像処理技術のOpenposeによるリアルタイム骨格検出と拡張現実(AR)を組み合わせ、マークテストをリアルとバーチャルの境界を越えたテストにクロス・リアリティ(XR)化し、身体表象の評価課題となる側面を見出してきました(Miyazaki, Asai, Ban & Mugitani, 2021)。30か所の身体部位に表示されるARマークへの手の伸ばし方を解析し、運動軌跡から2~3歳児の身体表象の発達的変化を示してきました。この解析を通じて、マークの定位エラーを左右する要因として視線と身体連動の重要性が浮かび上がってきたのです。
 また、これまでの長年の取り組みの中で、自己鏡像認知成立の背景に他者身体や環境との相互作用の影響を考える必要性を強く感じるようになりました。たとえば、2歳児では他者が自らの身体を指し示しながらマーク位置を教えるとおおむね正しく指し示せるのに、鏡に写された自分を見ると、後頭部にマークを探そうとする探索エラーを起こすことがあります(Miyazaki & Hiraki, 2018)。自己鏡像認知は個体能力の発現の側面だけでなく、他者や環境との相互作用といった観点から捉え直すことの重要性が昨今、高まってきています。
 本提案では、私たちが開発したXRマークテストに視線計測の技術を新たに加え、自己身体の制御獲得における視線の役割を検討します。さらに、自己鏡像認知に至る前の幼児の、鏡やカメラの自他像に対する反応や親子遊びの様子を、家庭での動画撮影により縦断的に収集します。自他像に対する身体の使い方の個体内発達を追うことで、自己鏡像認知を視線と身体の引き込みという観点から質的・量的に捉え直します。社会性発達を二人称から捉え直すインパクトある知見の蓄積が期待されます。

 

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