No.20
水谷 千代美
家政学部 被服学科 教授
近年、環境汚染や新規化学物質による皮膚のバリア機能の低下によって、衣服着用時に発生する赤み、湿疹、かゆみなどのアレルギー症状を訴える人が増加している。アレルギー性皮膚炎疾患者に対して、皮膚科医は化学繊維を着用しなければ発症しないと考え、天然繊維である綿の着用を推奨している。しかし、我々の研究成果によれば、化学繊維が問題ではなく、繊維表面の特性と皮膚への刺激が発症の大きな要因であることが分かっている。一方、衣服には多くの化学繊維が用いられ、化学繊維は環境負荷が大きく、リサイクルしやすく環境負荷の少ない繊維の開発が急務になっている。本研究は、生分解性繊維で地球にやさしい化学繊維であるポリ乳酸繊維に着目し、繊維表面の特性(水分率、熱伝導率、摩擦係数およびゼータ電位など)を変化させて皮膚への刺激性を調べ、アレルギー症状発症の誘起因子を明らかにすることを目的とする。これまでに皮膚の刺激性を調べるためには、人間の皮膚に直接貼り付ける方法(バッチテスト)が主に用いられてきた。本研究は、化粧品の皮膚に対する安全性を評価する方法である3次元表皮皮膚モデルを使用して、ポリ乳酸繊維の皮膚に対する刺激性と安全性を調べる。繊維による微弱な刺激性の物質を検出し、アトピー性皮膚炎などのバリア機能が低下した皮膚と健常皮膚での繊維による刺激感受性について検討を行い、皮膚刺激の新規評価法としての確立を目指す。
皮膚のかゆみはアレルギー症状の典型的な症状である。しかし、着衣によるかゆみ発生について、刺激因子の定量的な解析が遅れているのが現状である。人は皮膚に刺激を感じると、前頭葉、前頭前野、運動前野、視床などの脳部位の脳血流が増加する。本研究は、皮膚刺激要因のうち布帛による物理的刺激とかゆみ成分を含む生物学的刺激を中心にかゆみ度と脳血流量との関係からかゆみ度の定量化を試みる。