研究課題
科研費

台湾表象としての「白色テロ」
―2017年移行期正義促進条例を画期として

研究代表者

赤松 美和子

比較文化学部 教授

研究種目
基盤研究(C)
研究期間
(年度)
2023年(令和5年)2026年(令和8年)
赤松美和子

 

 何を以て台湾を表すのか。これは台湾の文学者、映画関係者、芸術家から政治家まで、あらゆる表現者たちの課題であり続けています。例えば、戒厳令解除(1987年)後の台湾文学や映画は、台湾語、日本統治時代など、中国の歴史や文化にないものを描くことで台湾らしさを表そうとしてきました。2000年以降は、先住民、客家、新移民などエスニシティの多様性、あるいは同性婚、LGBTQなど性の多様性の尊重なども、台湾の文化表象に加わっていきます。妖怪が台湾の文化表象とされたのは2010年代以降のことです。最近では、白色テロの負の歴史を、民主主義や人権の尊重を表す新たな台湾表象へと転換し、素材とする、白色テロの台湾表象化とも言うべき現象が生まれたと私は考えています。こうした傾向は、2017年の移行期正義促進条例公布以降、より顕著となっていきます。
 白色テロとは、フランス革命時に起源を有する語で、為政者が反政府運動や革命運動に対して行う激しい弾圧であり、戦後台湾では国民党による左派分子とされたものに対する鎮圧行為を指します。台湾は、1947年の二二八事件に続き、1949年から87年まで38年間にもわたる世界最長の戒厳令が敷かれました。白色テロ期と呼ばれるこの間、言論の自由が厳しく制限され、 数万人が政治犯とされ、数千人が処刑されました。こうした白色テロの歴史は、80-90年代にかけて、文学や映画に描かれ、負の歴史として記憶化されてきました。
 けれども移行期正義促進条例公布以降、過去の政権による人権侵害の真相究明や、被害者の名誉回復、補償といった歴史の清算を進める社会の動きに呼応するかのように、白色テロは、映画・ゲーム・漫画・ドラマ・ミュージックビデオなどエンターテイメント作品の素材とされる傾向が見受けられ、新たな台湾の文化表象といえるのではないかと考えています。
 本研究の目的は、2017年以降に発表された白色テロに関する作品を対象として、それ以前の作品とも比較しながら、白色テロのような「負」の歴史を、「正」なる台湾文化表象へと変換していくその手法と意義を読み解き、民主化以降の台湾表象のポリティクスを体系的に明らかにすることにあります。白色テロの再記憶化、およびその影響を、世代間比較も含め、体系的に整理することを通して、東アジアにおける近現代史への向き合い方を考える参照例となることも期待しています。

 

researchmap

CONTENTS